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生薬のはなし

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蟾酥(センソ)その五

ガマとヒトとは親戚?

これらガマ以外の生物から採取されたブファジエノライドは、従来のものと少し構造が違うものもあり、これらをもとにした新薬の研究も期侍されています。

ところで、ヤマカガシやホタルにもブファジエノライドが含まれているという研究結果をご紹介したわけですが、どうも人間さまも、ひょっとしてガマの皮脂腺からの分泌物と同じような成分―これを内因性ジギタリス様物質というようですが―を体内に持っているかもしれないということが話題になっていました。

内因性ジギタリス様物質は、物質としての量がわずかであることもあって、その物質を分離して、その物質が何であるかを確認する作業は困難を極めましたが、1990年秋、アメリカのブラウシュタインらの研究グループが大量の副腎組織からジギタリス様物質を精製し、構造を決定したところ、ウアバインであることが判明しました。ウアバインはキョウチクトウ科の植物ストロファンツスから取れるG-ストロファンチンとも呼ばれる強心成分で、これが内因性ジギタリス様物質として最初に確認されたものとなりました。最初に確認されたと書きましたが、その後、ジゴキシンが確認され、19-ノルブファリンが白内障患者の水晶体から、3β-ヒドロキシ14α20:21-ブファジエノリドがヒト胎盤から、ユリ科の植物、海葱(かいそう)の成分であるプロスシラリジンAがヒト血漿から、マリノブファゲニンが急性心筋梗塞後のヒト尿中から、つい最近ではテロシノブファギンが腎不全患者の血漿から発見されています。ウアバインとジゴキシンとプロスシラリジンAは基本的には植物由来成分ですが、残りの4成分はガマ由来成分ですから「ガマとヒトとは親戚?」というのは嘘ではないことが証明されたわけです。ではなぜヒトがそんな物質を体内で作っているのかというと、体内のナトリウムを排泄するための仕組みの一部だといわれていますが、全貌が明らかになったわけではありません。

ともあれ、ガマの耳腺の分泌物(センソ)の研究は、西洋近代科学の手法を用いた研究だけでも一世紀以上にわたる長い歴史があります。ガマガエルの腺分泌物には、様々な薬理作用がありますが、その中のかくれた作用として、研究者を中毒させるという不思議な作用があるのかもしれません。

【引用文献】

M.Dvelaら、Pathophysiology 14:159〜166(2007)