健康アドバイス
現代人と睡眠:快く眠るために
人は眠りを得るために多くの努力を費やしてきました。それは運動であったり、食事や薬であったりさまざまですが、それぞれの方法にはそれなりの効果があるというのも事実です。ただ「眠れない、眠れない」と悩むより、これから紹介する方法を1つ1つチェックして実行してみましょう。羊の数を数えるよりもよほど科学的かつ効果的です。
運動
運動、それも適度の運動は快い睡眠への導入剤の役割を果します。普段から肉体労働をしている場合や意識的に運動をしている人をのぞいて、サラリーマンなどの運動量は極めて少ないのです。極端な場合、歩くのは自宅のドアから車まで、またその車からオフィスのデスクまでの繰り返しといったこともあります。こんな場合、からだはちっとも疲れていないのに精神的疲労感から眠れないということが起こります。これは肉体と精神のアンバランスから起こる、『不眠』です。眠れるようにするには肉体を少し疲労させて、心身のバランスをとってやればよいのです。頭に集中した血液は、体操などの軽い運動をすることによって全身に分散され、心地よい眠りにつくことができます。但し、心臓がドキドキするような激しい運動はかえって安眠を妨げるので、散歩やストレッチ体操といったごく軽いものにとどめるべきでしょう。
自律訓練法
自律訓練法は、不眠症を治すためだけでなく、ストレスを解消することにより緊張や不安を少なくし、その結果として、生活に対するゆったりとした態度が作られ、二次的に『不眠』に効果があると考えられています。この訓練は床に仰向けになってやるのが一番よいのですが、椅子などに座ってやることもできます。まず床に仰向けになり、両足を軽く開き、楽にして、両腕はからだにつけ、手のひらが上になるように真っ直ぐに伸ばします。こうして、気分が落ちつきからだの調節ができるようになるまで、あちこちとからだを動かしてみます。下あごがだらりとし、瞼が垂れるように筋緊張をとるようにします。筋緊張がとれたら今度は、「片腕が重く感じる、もう一方の腕も重くなる。そして、両腕が重くなる」というように3回ずつ繰り返し自分にいい聞かせ、つぎに足、それに続いて腕と足を一緒に行います。すべての順番を3回ずつ練習します。さらに、一方の足、他方の足、そして両足が温かいという暗示をかけ、腕と足が両方ともとても温かいと言ってみます。同じように3回ずつ行います。つぎは、額がすっきりしていると言い、それから首や肩が重くなると言って、最後に「気持ちがゆったりしている」と3回言って終わりとします。自律訓練から普通の仕事に戻りたいときには、手をギュッと握り、足を少し動かし、背伸びをし、あくびをしてから大きな深呼吸をして目を覚ますようにします。夜ベッドでやっているときは目覚める必要がないので、そのまま自律訓練を続けていると、やがて自然に眠りに誘われるということになります。
食事
食事も睡眠と深く関係しています。1つはその成分であり、1つは摂取の量と時間です。満腹になると眠くなるのは、食べ物が胃に入ると血液は胃腸に集中するため、その他の部分、すなわち脳などの血流量が減るからです。その結果、頭がボンヤリして眠くなってしまうのです。では不眠症の治療に眠る前の食事がよいかといえば、残念なことに、そうではないのです。これは、経験者ならばよく承知していることでしょう。満腹ではなかなか寝つけない。夜になり休息時間になると、人間のからだは休息の神経である副交感神経に支配され全身の活動が低下します。しかし食事をして満腹になると、覚醒の神経である交感神経が働かざるを得なくなります。つまり、からだが日中の活動状態に戻ってしまうのです。空腹で寝つけない場合は、消化のよい食べ物を少量だけ摂ります。ヨーグルトや果物、温かいミルクにビスケットなどがいいでしょう。そして、食後30分から1時間位で寝床に入るようにします。
快眠のためには、食事量のほかに夕食の時間も重要なポイントになります。消化の悪いものを多く摂ると、早目に食事をしても就眠時にはまだ胃の中に沢山の未消化の食物が残っていて、安眠は期待できません。就眠時間を目安に夕食時間を決め、なるべく消化のよいものを摂るのが快適な眠りをもたらす夕食のとり方です。どんな食品が『不眠』によいかということもまた大切なことです。いまのところ、眠りを誘う代表的な物質は、アミノ酸の一種であるトリプトファンだと考えられています。
つまり、トリプトファンは血中から脳内に運ばれた後、セロトニンに変化し、睡眠の発現やその維持にかかわっているという学説です。セロトニンが不足した動物は『不眠』になりやすく、セロトニンの量が回復してくると、今度は起きていられなくなります。したがって、人間でも同様に睡眠にはセロトニンが必要と考えられており、トリプトファンは健康な睡眠には大切なものとされています。トリプトファンを豊冨に含んでいる食物は、ミルク、チーズ、卵、肉類や、豆腐、納豆などの大豆製品です。
また、カルシウムも神経の安定や『不眠』をやわらげる成分とされており、血液中のカルシウム値が低くなると、落着きがなくなり、イライラしてくることは実験でよくわかっています。カルシウムはヨーグルト、小魚、ノリやワカメなどの海藻類に多く含まれています。この他、ビタミンBやビタミンEなどを含む食品も、入眠を助けるよいものとされています。ただし、ほどよく摂取することがなにより大切で、多量に摂ってもすぐ不眠に効くというわけではありません。
アルコール
アルコールはだれもが考える入眠物質ですが、酒を飲めない人々にとっては入眠物質とはいいにくく、飲む人々にとっても飲む量を間違えれば、かえって興奮して眠れないということになります。だからどんな酒をどの位飲めばナイトキャップとして適当かというのは難しいものです。アルコールも麻酔薬などと同じく、飲む量によって(1)誘導期 (2)発揚期 (3)麻酔期の状態となります。誘導期と麻酔期の二つの状態では入眠薬としての効果がありますが、麻酔期に至るような深酒はレム睡眠を阻害するため、翌日目が覚めても疲れがとれないということになります。
寝室
寝具や寝室といった要素も睡眠に大きな影響を持っています。硬すぎるベッドや柔らかすぎる枕、低すぎたり、高すぎる温度や湿度、部屋の照明や遮光性、それに遮音性などは安眠のポイントとして充分考慮しなければなりません。例えば、遮光が必要だからといって、真っ暗にしてしまうと、かえって眠れなくなることがあります。これは、光量が減ったために瞳孔が開いて、覚醒の神経である交感神経が活発化したためです。では、明るければよいかといえば、これも違います。安心して眠りに入り、熟睡して、快適に目覚めるのに適した明るさは、0.3ルックスから30ルックスまでだというデータがあります。また、夜明けと共に明るくなる東向きの部屋と、光をほぼ遮断できる西向きの部屋で、同一人物による睡眠調査をしたところ、後者のほうが明け方のからだの動きが少なく、熟睡できたという実験があります。ともあれ、睡眠環境も、ここちよい眠りのために十分工夫する必要があります。
薬
食事や運動、それにアルコールでも寝つけない場合は一体どうすればよいのでしょうか。それは、やはり薬にたよらざるをえないでしょう。薬は恐いという人がいるかもしれませんが、上手に使えば『不眠』解消へのもっとも直接的かつ有効な方法です。一口に睡眠薬といっても多くの種類があります。
1つはバルビツール系といわれる一群の薬剤で、その確実な催眠作用によって今世紀の初めから多用されてきましたが、同時に精神的・身体的依存を起こしやすく大量服用は生命の危険があるという短所をもっています。これらの薬に代わって、最近睡眠薬の主流となってきた薬剤にマイナートランキライザー(緩和精神安定薬)と呼ばれるものがあります。これらはバルビツール系のものよりずっと安全で使いやすいのですが、やはり医者の処方箋なしには手に入れることができません。また、作用時間が長いため、どうしても翌日への持越効果があり、朝の目覚めが快くないといった欠点があります。それに多くの合成された睡眠薬は眠りの正常なリズムを変化させるという欠点をもっています。
一方、これらの合成薬の他に植物性の生薬からつくられたものがあります。サンソウニン、チモ、センキュウ、カノコソウ、チョウトウ、チャボトケイソウ、ブクリョウなどが代表的な成分です。植物製剤は、合成薬のように無理に催眠させるといったこともなく、眠りにつくまでのからだのしくみを整えて、眠りの質を徐々に改善していくので、薬を飲んだ翌朝も車の運転や、機械の操作などを避ける必要はありません。また、依存性や習慣性といった好ましくない作用もないので、われわれが『不眠』に悩まされたとき、まず初めに試みる価値のある薬だといえましょう。睡眠薬を使うかどうかということは、その時の状況に負っているので、植物性の薬でも眠れず医者からマイナートランキライザーをもらうようになったからといって、敗北感や罪悪感をもつことはありません。