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秋の薬草木

コラム 実りの秋です (お米がくすりに〜)

日本各地でお米の収穫が真っ盛りです。一面黄色に染まった田園風景は、我が国で一番秋にふさわしい風物詩といえます。弊社の「薬草木ガーデン」でも、プランターの中で見事に育ちました。もちろん、日本人だけでなく人類にとって、お米は大切な主食であることは言うまでもありません。

イネ
ハトムギ

しかし、皆さんは、お米が医薬品にも使用されていることを、ご存じでしたか。昔から、病中、病後の体力回復等には、お粥や重湯が用いられてきました。

現在の医薬品の規格書は「日本薬局方」ですが、かつては「国民医薬品集」と言う厚生省で定めた規格書もありました。その中に、重湯は医薬品「重湯末(粉末重湯)」として収載され、さらに重湯末は米粉をアルファ化した粉末であると規定されていました。

南江堂版公定書注解に使用の発端として、1925年ドイツの小児科医Bessauが乳児急性栄養障害の濃厚重湯療法に関する研究を発表し、その後米重湯に関する関心が急速に高まり、1927年我が国に置いても医薬品としての重湯末が製品化されるようになりました。アルファ化とは生の時の消化しにくい形の澱粉質成分を、煮た形に変えたものとあります。水分を飛ばし、粉末にした製品をお湯で戻し、乳児の消化障害や人工栄養などに用いるとあります。重湯はもっとも身体に優しい栄養源として活用されてきたわけです。

現在の医薬品の規格書「日本薬局方」には生薬名「米澱粉(こめでんぷん)」「粳米(こうべい)」として、収載されています。これらはイネの種子から得た澱粉と記載されています。解説書などには、玄米が果実で、胚乳の部分が白米で、これより製したものが米澱粉とあります。

医薬品としての「粳米」は滋養剤として、漢方処方にも配合されています。お腹が冷えて痛い人などに用いられる「附子粳米湯(ぶしこうべいとう)」、皮膚の発疹などの人に用いられる「白虎湯(びゃっことう)」や激しい咳の出る人に処方される「竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)」等の漢方処方です。

我が国の食卓も大分西洋化されてきましたが、やはり農耕民族と言われる日本人の主食にはお米が一番ですね。また、食欲不振、消化不良や病後の体力回復が必要な時は、昔から活用されてきたお粥や重湯を見直してほしいものです。

この季節、弊社薬草木ガーデン内で、実りのあるものを拾ってみますと、おなじみの滋養強壮、利尿剤や漢方処方にも配合されるイネ科の「ハトムギ」、種子の皮を剥いたものは、生薬名「薏苡仁(よくいにん)」です。生薬名「ヒマシ油」種子は「蓖麻子(ひまし)」として知られるトウダイグサ科の「トウゴマ」、さらに最近ではダイエットにも人気のあるナス科の「トウガラシ」などの果実、生薬名「蕃椒(ばんしょう)」が、秋の深まりを告げています。

トウゴマ
トウガラシ

サンザシ(バラ科)

バラ科の落葉性低木、中国原産で我が国へは江戸時代亨保年間に渡来したと言われています。2メートルほどの高さになり、枝にはトゲがあります。小さな白い5弁の花を4〜5月頃咲かせ、10〜11月に赤い果実(白実もある)をつけます。薬用や食用にする果実にはビタミンCを多く含みます。 果実を民間薬として用いたり、肉類を煮るとき、この果実を入れると柔らかくなります。また、果実の生薬名は「山査子」と呼び、漢方では健胃、消化、整腸を目的として「化食養脾湯」(かしょくようひとう)に配合されます。ヨーロッパではセイヨウサンザシの葉を心臓の働きを良くするハーブとして利用するようです。園芸用に売られている綺麗なピンクの八重咲きのものには果実は付きません。

サンザシの果実

サンザシの果実

学名はCrataegus cuneata Sieb.でギリシャ語のCrataegusは強い、力、を持つ意から由来していると言われており、また、5月に咲く代表的な花の意味でメイフラワーとも呼ばれています。そのせいでしょうか、イギリスのピュウリタンが希望をふくらませ、新大陸を目指して船出をした船の名前がメイフラワー号。受難時、キリストの冠もトゲのあるサンザシが用いられたようです。 中国に行くとサンザシのお菓子(山査子餅、山査子羊羹)やジュースが沢山ありますが、これはオオミサンザシと思われます。我が国の園芸でおなじみの、ヒメリンゴに似た小さなリンゴ型の果実を付けます。少し甘酸っぱく、美味と言うほどではありませんがそのまま食べられます。

オオミサンザシ(東京都薬用植物園)/八重咲きサンザシ

オオミサンザシ(東京都薬用植物園)/八重咲きサンザシ

うけら物語

朮焚き(おけらだき)の神事

うけらは薬草オケラの古名です。秋も深まり各地で秋祭りが始まりますと、薬の神様「薬祖神」の祭りが執り行われます。東京の薬の町日本橋本町で行われる薬祖神祭では、葉が落ちない縁起の良い「おかめザサ」に吊した「神壺」が配られます。この壺は昔の「薬壺」を模したもので、その中には生薬「朮」(オケラ)と「勝の餅」が納められています。

朮焚き(おけらだき)の神事

この朮を立春の日に火にくべ、その火で「勝の餅」を焙り食すると1年間無病息災に暮らせると伝えられてきました。これを「朮焚きの神事」と云います。大阪の道修町で行われる薬祖神祭では、同じく「朮」(おけら)と「餅」が封入された「張り子の虎」が配られます。

オケラは我が国各地に自生しており、古くから親しまれてきました。かの万葉集にも地味ではあるがしっとり控えめな白い花を愛でて、「うけらが花」と3首の恋歌が収載されています。また、郷歌に「山にうまいものありオケラにトトキ(ツリガネニンジン)」と謡われ、オケラの若い葉は山菜としても好まれてきました。

昭和の後半に渡来したオオバナオケラ

さて、このオケラは根茎の乾燥したものを生薬名「白朮」(ビャクジュツ)とよび漢方処方に配合されます。しかし、中国の古典に記載され、薬用に用いられたのは中国に自生していたオオバナオケラの根茎でしたが、我が国では入手が困難なため、自生していた近縁種のオケラを薬用としてきました。 そのため、中国産の白朮をカラビャクジュツ、国産のものはワビャクジュツと区別されています。しかし国産のものは今は無く、全て韓国や中国からの輸入品でまかなわれています。また、同属植物にオケラより葉が細めなホソバオケラがあります。この根茎は生薬名「蒼朮」(ソウジュツ)といい、多くの漢方処方に配合されます。

オケラ

オケラ

オオバナオケラ

オオバナオケラ

江戸時代に渡来したサドオケラ

ホソバオケラは元々中国原産で、我が国には江戸時代亨保の頃種苗が中国から渡来した。江戸幕府の薬園で栽培され、その後各地で盛んに栽培されるようになりました。

特に佐渡で栽培されたものは、「佐渡蒼朮」と呼ばれサドオケラとも呼ばれていました。オケラ類は雌雄異株で大変交雑しやすい性質を持っています。このサドオケラは中国から渡来してきた時には雄株が無く、雌株だけでした。日本のオケラと交雑しやすく、純粋な蒼朮の生産が難しく、種子で増やすことができなかったようです。そのため、根茎を小さく割り植栽し生産したようです。朮として平胃散、桂枝加朮附湯、消風散、治頭瘡一方など多くの漢方処方に配合されますが、中でも白朮として特定されている処方は胃苓湯、香砂養胃湯、二朮湯などです。写真のように中国のオオバナオケラは我が国のオケラに比べ、花が大きく、ピンクの花弁が派手目です。

ホソバオケラ

ホソバオケラ

ハブソウ(マメ科)

中国南部、熱帯アジア原産の一年草で、茎は直立し、約1m位になり、花は黄色の蝶形で横向きに咲きます。ハブに噛まれた時に、葉を揉んで付けると良いと言われたところから、ハブソウと言われるようになったと言われています。しかし、実際には効果はありません。昔は「ハブ茶」として、この種子、生薬名「望江南」(ボウコウナン)を煎じた液が、利用されてきました。しかし、現在の「ハブ茶」は成分が似通ったエビスグサの種子が用いられています。エビスグサとよく似ていますが、エビスグサの花は葉の茎のわきにつき、種子のさやは15cm位で、細く弓なり状になりますが、このハブソウの花は比較的、上の方に集まって咲きます。良く観察しますと、小葉が10〜12枚付いており、葉の先がとがっています。種子のさやは太く約10cm位で棒状です。薬用としては、決明子とほとんど同じ、お通じを良くし、強壮健胃作用があります。

ハブソウ(マメ科)

トウキ(セリ科)

大変良い香りのするセリ科の薬草です。昔、中国の民話に病弱で子供ができず、家を追い出されたご婦人が、世をはかなんでいましたが、周りに生えていた草を食べたところ、体調が回復し、復縁がかない、そして子供ができたと言うお話があります。この薬効あらたかな薬草が「当帰」で、元気になり「当(まさ)に家に帰る」から、名付けられたと言われています。

トウキ(セリ科)

名の由来のとおり我が国でも昔から婦人良薬として有名な薬草です。比較的古くから栽培されており、今でも奈良、和歌山や北海道等で栽培されている国産の数少ない薬草の一つです。薬用にする部位は根で薬の規格書「日本薬局方」に生薬名「当帰」として収載されています。良い香りの主は多く含まれている精油分、特にブチリデンフタリドです。貧血症や生理不順、昔風に言えば血の道症に煎じて服用します。

薬用として本格的に栽培するには、「めくり法」など独特の栽培方法を駆使して根の肥大をはかります。しかし、自家用としての栽培は比較的容易で、葉をお風呂に入れると、大変香りの良い薬草風呂になります。しかも、大変暖まり血行が良くなります。花後の成熟果実は薬用酒に利用できます。

漢方処方では、病後の体力回復に多く使われている「十全大補湯」、血行を良くし貧血などに用いられる「四物湯」等に配合されます。さらに当社製品では、疲れる方や胃腸が弱い方などに評判の良い滋養強壮薬、「複方霊黄参丸」に配合されています。

ハナスゲ(ユリ科)

葉がスゲに似ていて、花が美しいところから「ハナスゲ」と名付けられました。中国原産のユリ科の多年草です。葉の高さは30〜70cm位で、花の茎は50〜100cm位までのび、葉の間にすっくと立ち上がって、なかなか良い姿をしています。上部30cm位のところに、小さな筒状の淡紫色の花を沢山咲かせます。 薬用には、根茎部分を用い、薬の規格書「日本薬局方」に生薬名「知母(ちも)」で掲載されています。民間療法ではあまり使われませんが、漢方では内熱をとり、痛みを止め、腫れを去ると言われ、よく使われます。代表的な漢方処方では「白虎湯」「白虎加人参湯」「桂枝芍薬知母湯」等に配合されます。また当社製品では眠れない方に優れた効きめを発揮する生薬不眠改善薬「ホスロールS」に配合されています。

ハナスゲ(ユリ科)