頑張るが好き
- 堀
- 今回はいとうあさこさんにお話を伺います。大変多忙とお聞きしていますが、ご自身のキャリアで今が一番忙しいですか?
- いとう
- 40歳位からテレビに出始めて15年くらい経ちますが、自分の中ではずっと平坦なイメージです。よく「ブレイクのきっかけは?」と聞かれますが、出始めも突出した何かがあった訳でもありませんでした。例えばですが、若い方には「爆笑レッドカーペット」の浅倉南ネタで、「世界の果てまでイッテQ!」ではファミリー層に、のように、徐々にいろんな方に認識していただくようになっていった感じです。
- 堀
- 仕事の量はご自身で調整できるものですか?
- いとう
- 以前、食事や移動の時間も十分でないスケジュールだった時はさすがに「私も人間だよ」と事務所に懇々と訴えました(笑)。今の時代、芸能界も休息の重要性や働き方改革が進んだ面と、一方でそればかりでは世の中賄えない部分も実際あると思います。私は漢字の“頑張れ”という言葉が好きで自分に課すことがあります。無理して働くことを決して美徳とは思いませんし他人に強要はしませんが、頑張った先にあるものも見た経験がありますし、ここは頑張る場面だと気合を入れる時はありますね。
- 堀
- なぜお笑いの道に入られたのですか?
- いとう
- テレビで観た俳優の室井滋さんや、喜劇も悲劇もスペシャリストのいかりや長介さん、伊東四朗さんの大ファンだった私は高校卒業後、喜劇俳優を目指し専門学校に入学。実技の授業中心だったミュージカル科を専攻したら、うっかりミュージカルにハマってしまいまして。そのままミュージカルの道へ。
卒業後「アルプスの少女ハイジ」というファミリーミュージカルでロッテンマイヤー先生役に抜擢されまして。ある日の稽古中、演出家から「ハイジをいじめるところ、いとうさんの好きにやってみなさい」と言われ、私は毎日自分なりに考えた、違う“いじめ方”をしてみました。やはりウケない日もあるのですが、ウケた日は自分の中にアドレナリンがドッと出る感覚があって。「そうだ!私は喜劇がやりたかった!」と思い出したのです(笑)。
当時、テレビにどんどん新しい芸人さんが出てきていた時で、「今あの世界に入れば誰でもすぐ有名になって、商業演劇に呼ばれる人間になれる!」と思いこみ、お笑いライブのネタ見せに参加しました。そこに100組ほどの芸人がいたのですが、ほとんど無名。でも、めちゃくちゃ面白くて。やはりすぐには売れない世界だと気づかされた反面、「なんて魅力的!」と一瞬で心を射抜かれまして。そもそもひどい勘違いから飛び込んだお笑いの世界ですが、「いとうあさこ」を知っていただくまでに14年かかっても、やめずに今日まで続けてこられているのは、本当に不思議な気持ちです。 - 堀
- お笑いの仕事の魅力は?
- いとう
- 人の笑い声を聞くと自分自身に元気が出て、私は人の笑い声を食らう化け物と思っていただければ分かりやすいです(笑)。実は暗い所、狭い所、高所、お化け、虫全部苦手なのですが、そんな苦手なことでさえオンエアを観た人に「面白かったよ」と言われればすっかり忘れまた次に進めるんです。あとは失恋や日々の失敗エピソードなどを笑いに昇華でき、しんどいことがリセットしやすいところは得な商売と言えますね。
- 堀
- 芸能界でライバルとして意識している人はいますか?
- いとう
- 昔は女芸人が少なかったのと、今みたいに賞レースがなかった時代で、戦うことも1つのポジションを取り合う感覚や他の人が売れて悔しい気持ちもなかったですね。 芸人はみな似て非なる存在で各々の個性があると思いますし、他人と比較する意識は薄いです。
- 堀
- 社会通念の変化の中、メディアのお仕事で心掛けていることは?
- いとう
- 自分に嘘をつかないことです。例えば、昔ですが「イケメンの共演者にキャーキャー」みたいなことが求められたりした時、親子くらい年齢差があると、むしろお母さんみたいに接した方が面白いな、と思ってそうさせてもらったし。味の感想みたいなのも嘘ついちゃうと、いつか信用がなくなると思い、正直に言います。あと過去に訪れたお店はもちろん「初めて」と言わないとか。ただ最近は年のせいなのか、何回目かわからなくなって話を盛っちゃっていることもあるかも。そこはご勘弁(笑)。
- 堀
- 番組の演出と個人的な考えとの折り合いをつけたりしない?
- いとう
- それはケースバイケースですが、仮に自分の言動で叩かれることになっても、それが心からの自分の意見だったら「私が思ったんだから」と思えますが、もし自分は思ってないものを人に言われて発言して、それが炎上した場合、「私じゃなくてあの人が言えって!」なんてめちゃくちゃカッコ悪いじゃないですか。そういう意味では自分の考えに信念はもっておこう、とは思っています。例えば、浅倉南ネタも最初は「テレビ向きじゃない」と言われ、ずっとネタ見せで落ちていたのですが、ある番組のイベントで他のネタでオファーされましたが、自分の中でまとまっていた、この南ちゃんネタをやりたいとお願いし、やったところ大ウケ(笑)。そこから番組に呼んでいただくようになりました。あの時、直感を信じてよかったです。
- 堀
- 世間やネットの反応は気になりますか?
- いとう
- エゴサーチしたりしますね。否定的な意見に傷つかないかと言われれば微妙ですが数人の意見が世の中全ての反応ではないし、その影響で発言しづらくなることもなく気にせず暮らせるほうだとは思います。
- 堀
- それでも調べるのはなぜ?
- いとう
- 良いことを書いてくださる方もいてそこに出会えるからです。シンプルに番組のどの部分で笑ってくれたのか、こういう方がこんな細かい部分を見てくださっているんだと知れるのは自分にプラスになりますから。
喜劇俳優への憧れ
信念を貫く
お酒と友人との時間
- 堀
- 体力的にもハードなお仕事が多いようですが、体調管理で気をつけていることは?
- いとう
- 年1回人間ドックを受診するほかは特になくて、食事も食べたいと思ったものは身体に足りないものを本能が教えてくれているのだと考えそれに従っています。お酒は醸造酒が大好きで食事と合わせてガブガブと〝神が許す限り〟楽しんでいます。でも舞台の期間中は1か月禁酒もしますし、仕事に応じ自然に休肝日ができている感じです。
- 堀
- 海外ロケでは食事や移動のご苦労も多いかと思いますが?
- いとう
- 基本大丈夫ですね。スタッフさんはよく和食を食べたがりますが、私は異国の和食は高くて味もそんなに、なことが多いから、「現地飯がいい!」とよくもめます(笑)。時差ボケも飛行機に乗ったら時計を直ぐ現地時間に合わせ、逆算して食事や睡眠などを取るように心掛けるのでうまく対応できています。
- 堀
- 自己管理をしっかりされているのですね。オフの日のリラックス法は?
- いとう
- 収録はなくても執筆仕事が山積みだったりするので完全なオフは多くありませんが、空き時間に百貨店で友人への贈り物を選んだり、芸人仲間の大久保佳代子さんの家にパコ美という可愛い犬がいるのですが、私はパコ美のばあばと称してたまに訪れては可愛がるだけ可愛がって好かれて帰る良いとこ取りをしています。
笑いの国で、生きる!
- 堀
- ラジオや執筆等アウトプットを求められることが多い中、インプットの時間や方法は?
- いとう
- この前道で転んだ話とか信じられない位小さい事柄を忘れないようにメモしたり常にアンテナを張っておくことは本当に必要だなと思います。大きな出来事はなくとも日々失敗も増えてくる年頃なのでそれを楽しむ、カッコよく言えばそれがインプット、っていうことでいいですか?(笑)
- 堀
- 年齢や体力などで今の仕事を続ける限界は来るとお考えですか?
- いとう
- 私より年上でお笑いをバリバリやっている方がいらっしゃるので年齢を理由にはしたくないです。仕事への向き合い方の変化はあると思いますが表現方法は一つではないし、その年齢で見せられるものが何か、その時々でわかりたい。自分の嗅覚を大事に、一握りでも好奇心を握りしめていきたいですね。
- 堀
- お笑いの仕事は天職だと思いますか?
- いとう
- う~ん、天職ってなんなのでしょうね。他人が決めるものか自分の判断なのか。ホテルや飲食店のバイト経験からサービス業に向いているなとは思いますが、これだけお笑いを辞めずに続けてこられたのだからそうかもしれませんし、むしろ天職だったと言って終わりたいですね。テレビ、舞台、執筆…どのジャンルかはその時にならないと分かりませんが、様々な形の笑いに自分がパズルのようにはまってお笑いの国で年を重ねられたらいいなと思います。
- 堀
- 今後の目標などお聞かせください。
- いとう
- 目標は“生きる!”です。このきっかけは友人とフィリピンセブ島沖のカオハガン島に行ったこと。日本人が島主でリゾート化せず先住の現地人もそのまま暮らしている小さな島なのですが、ちょうど島のお嬢さんの結婚祝いで豚を3頭丸焼きにしてみんなで準備していました。島民の話では結婚式と1歳の誕生日にやるそうですが、医療も不十分な島では1歳まで生きられたこと自体凄いことだそうで、改めて人間の、動物の弱さと強さに触れてからは、楽しいけど大変で、きついけど良いこともある人生を一生懸命“生きる!”ことを目標としています。
- 堀
- 楽しく元気な、いとうさんのご活躍を期待しております。本日はありがとうございました。
