健康プラザ

血管が急に詰まる病気
- 一刻も早い血流再開が大切 -

菱田 仁氏
菱田 仁(ひしだ ひとし)
医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長
前 藤田保健衛生大学病院 院長

昭和40年、名古屋大学医学部卒業。同大学大学院修了、医学博士。名古屋大学第一内科副手、名古屋保健衛生大学(現・藤田医科大学)内科講師、助教授を経て昭和63年教授、平成18年2月より病院長。平成21年4月より医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長。専門は臨床心臓病学、特に心不全、虚血性心疾患、画像診断。

血管が急に詰まる病気といえば、心筋梗塞や脳梗塞が良く知られています。これらは、中高年に生じ、命にかかわったり、身体障害を残したりする重大な病気です。多くは動脈硬化症や心房細動を基盤として生じた血栓によって起きます。そこで、動脈硬化の進行を抑えるために、メタボリックシンドローム対策が国を挙げて行われています。それでもかなりの人が罹患し、心血管疾患は、がんについで、日本人の死因の第二位となっています。

ところで、最近はそれらが発症した時の治療に画期的な進歩がみられ、それにより命を落とさずに済んだり、軽い後遺症を残すに留まるようになってきています。そのことを知っていただき、自分や身の周りの人が発症した時に適切に対処して欲しいと思います。

血流再開療法とは

心臓や脳には多数の栄養血管が張り巡らされ、隅々まで血液が行き渡り、酸素が供給されています。血栓のため血管が詰まると、その還流域には酸素が届かなくなり、心臓や脳の組織の一部は機能不全に陥ります(虚血状態)。そして虚血状態が一定時間以上長引くと組織は死んでしまいます(壊死)。ところが、まだ虚血状態にあるうちに血流を再開させれば、組織が壊死に陥らずに済むか、壊死を最小限に抑えることができます。これが心筋梗塞や脳梗塞の血流再開療法の原理です。近年、薬剤や医療技術の進歩により、臨床の場でそれが可能となり、画期的な成果を挙げるようになったのです。

発症から血流再開までの許容時間
<心筋梗塞は12時間>

急性心筋梗塞は、突然の前胸部締め付け感、あるいは類似の症状で発症します。ニトロを使っても効きません。発症して12時間以内であれば、できる限り早く、詰まった血管の血流を再開させるべきです。PCI法、即ち、心臓カテーテルを使って閉塞部位を開通させる方法が用いられます。発症後数時間以内に開通させるのが良いとされています。ただ、この時間には、発症から、救急車を呼んで家に到着するまでの時間、専門病院までの搬送時間、そして病院に着いてから各種検査や診断を行って心臓カテーテルを開始し、血流再開に成功するまでに要する時間(1〜2時間かかる)、のすべてを含みます。

PCIの準備に時間がかかるときは、血栓溶解剤(t−PA)の静脈注射を使うこともあります。

ちなみに、急性心筋梗塞では発症と同時に、しばしば心室細動という致死性不整脈を生じます。その場合は速やかにAEDなどによる心肺蘇生を行い、落ち着いてから血流再開を試みるのは言うまでもありません。

<脳梗塞は4.5時間>

脳梗塞の症状も突然現れます。片側の顔の歪みや手足の脱力、言語障害に気づいたら、脳梗塞か脳出血の可能性があります。直ちに救急車を呼んで専門病院へ運びます。脳梗塞と診断され、かつ発症後4.5時間以内であれば、血栓溶解剤(t−PA)の静脈注射を行います。それ以上の時間が経つと効果がなくなります。効果がなかった場合も、MRIやCTなどで、脳組織を救う余地のある状態と判断されれば、血管カテーテルを使って血栓を体外に摘出できるようになりました。

脳梗塞の場合も、治療開始の前に色々検査がありますので、発症から2時間以内くらいには専門病院に着く必要があります。ただ、脳梗塞では心筋梗塞のように激しい痛みがあるわけでなく、発症時刻の判断が難しいことがしばしばあります。それについても、MRI検査で見当がつけられるようになってきました。

以上のように、「血管が急に詰まる病気」を疑う症状が、突然出現したり、あるいは気づいたら、一刻も早く救急車を呼んで専門病院を受診して下さい。そして、診断が確定したら血管の閉塞時刻の推定を行い、薬物あるいはカテーテルを用いて血栓を除去し、できる限り早く血流を再開することが大切です。そのことが心筋梗塞や脳梗塞の予後に大きく影響します。医療の進歩でそれが可能になったのです。