酒は百薬の長と呼ばれ、例えば赤ワイン1杯ぐらいなら健康に良いと信じている方はとても多いのではないかと思います。一方で、コンビニエンスストアで安くてすぐに酔えるストロング系チューハイのような高アルコール飲料が若者に流行り、禁煙対策が進んできたなか、アルコールは本当に体によいのか、悪いのかホットな話題になっていました。
世界保健機関(WHO)では、アルコールの摂取量を低減して、循環器疾患やがんの予防のため、アルコールの低減に関する目標を発表していましたが、2024年2月に厚生労働省においても、酒に含まれるアルコールの量で健康へのリスクを示した飲酒ガイドラインがついに発表され、大きなニュースになりました。日本では、アルコール度数や何杯飲んだかで飲酒量を把握するのが一般的でしたが、厚生労働省は、酒に含まれるアルコールの量、つまり「純アルコール量」で健康へのリスクを示すことにしました。純アルコール量は、飲んだ酒の量とアルコール度数、アルコールの比重をかけ合わせて計算します。ガイドラインでは、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、国の基本計画で一日当たりの「純アルコール量」を、男性で40グラム以上、女性で20グラム以上摂取した場合と定義されています。女性の方が男性と比較して体内の水分量と分解できるアルコール量が少なく、エストロゲン(女性ホルモン)により、アルコールの影響を受けやすいためです。例えばアルコール度数5%のビールでは、中瓶やロング缶1本、500ミリリットル飲むと、純アルコール量は20グラムに当たりますので、女性の場合は1本だけでリスクが高まるということになります。ワインもグラスで2杯飲むとおおむね20グラムを超える量になってきます。高血圧や女性の脳卒中などの場合は、たとえ少量であっても飲酒自体が発症リスクを上げてしまうこと、男性の脳卒中は20グラム以上の量の飲酒で、大腸がんの場合は、男女を問わず、20グラム程度以上の量の飲酒を続けると発症の可能性が上がる結果を示した研究が知られています。乳がんは14グラム以上でもリスクが高まるとされており、ワイン1杯でも要注意ですので、台所で料理を作りながら、ワインを飲んでしまうような習慣の方もいるかもしれませんが、見直しが必要です。
心筋梗塞のリスクはまだ研究の段階ですが、高血圧と狭心症、心筋梗塞は関連が深く、心臓に負担を与えることに繋がります。肝臓は悪い状況にまで至っていなければ、生活習慣の見直しで肝細胞の再生により回復を促せますが、心臓の心筋細胞は回復しないので、優しくいたわる気持ちが大切です。健診で高血圧が引っかかっている方や降圧剤を飲まれている方はアルコールの習慣を見直してみましょう。1週間のうちに休肝日を設けたり、飲み方を工夫してチェイサーの水を飲みながらお酒を飲んだり、アルコールを飲む前に食事をして、すぐにアルコールが吸収されないようにするなど試してみてはいかがでしょうか。特にお酒を少し飲んだだけでも顔が赤くなってしまうような方は、遺伝的に分解酵素のはたらきが弱いタイプですので、同じ量でももっとリスクが高まりますから、より注意が必要です。また高齢者は若い時と比べて、体内の水分量の減少で同じ量のアルコールでもリスクが高まり、飲酒量が一定量を超えると認知症の発症の可能性が高まってしまいます。認知機能の低下を防ぐためにも改めて、今、お酒の飲み方が問われています。
夜に眠るために飲酒を続けることは、最近の睡眠学の知見によれば、逆に飲酒により眠りが浅くなることが知られており、睡眠リズムを乱します。また過度な飲酒は免疫力の低下をきたし、感染症にかかりやすくなるリスクがあり、いまだ新型コロナウイルス感染症もくすぶっているなか、免疫力を維持するためには適切な飲酒の習慣が必要です。ちなみに私もお酒を飲みます。コロナで飲み会ができなくなった時期を抜けて、親しい友人などとお酒を飲むのは改めてとても楽しいことですが、私自身も今回のガイドラインをきっかけにお酒の飲み方を見直し、必ずチェイサーを頼んでいます。