ためして!漢方

頻尿

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
東海大学医学部専門診療学系漢方医学・教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成29年4月より現職。早稲田大学、東北大学ほか非常勤講師なども務める。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、医学教育専門家。
主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)『わが家の漢方百科』(東海教育研究所)

昼夜問わず、多い時は2〜3時間おきにトイレに行くほどの頻尿に悩んでいます。今のままでは旅行や外出も心配でいけません。漢方で改善は見込めますか?
(75歳、男性)

尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に蓄積され、尿道から体外に排泄されます。腎臓には1分間に約1000mlの血液が流入し、そのうち約半分を占める血漿が腎臓の濾過装置である糸球体を通過し、さらにその20%(100ml/分)が実際に濾過されて原尿となります。原尿の99%が尿細管で再吸収され、再吸収されなかった1%が尿となり排出されます。通常、膀胱にためることができる最大尿量は300〜500mlで、150〜200mlの尿がたまると尿意を催します。成人では、1日尿量は1000〜1500ml、尿回数は平均6回前後で、8回以上が頻尿とされます。

頻尿の原因は様々ですが、特に高齢者では、膀胱に尿が十分たまっていないのに我慢できない尿意が起こる過活動膀胱である場合が少なくありません。しかし、糖尿病やうっ血性心不全、腎機能障害、あるいは利尿剤の内服などでも頻尿が起こりますので、原因を調べておくことが重要です。また、日常生活ではカフェインを多く含む緑茶やコーヒーの飲み過ぎにも注意が必要です。

漢方では、猪苓湯(ちょれいとう)は膀胱炎の急性期で排尿痛や残尿感が強く、血尿を伴うような人に用います。再発を繰り返す場合には猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)が第一選択です。夜間頻尿を訴える高齢者には八味地黄丸(はちみじおうがん)が有効で、腰痛、下肢の虚弱や浮腫、手足のほてりを伴うこともあります。八味地黄丸で効果が不十分な人や下肢のしびれやむくみが強い人には牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)がよいでしょう。これは八味地黄丸に牛膝(ごしつ - イノコズチの根)と車前子(しゃぜんし - オオバコの種子)を加えた処方で、利尿作用が強化されています。清心蓮子飲(せいしんれんしいん)は胃腸が弱く虚弱な体格で、体が冷えて膀胱炎を繰り返す人、人参湯(にんじんとう)は胃腸が弱くて下痢しやすく、昼夜ともに薄い尿が多量にでる人に用います。竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)は前立腺炎などの炎症を伴う人、五淋散(ごりんさん)は尿路系の慢性炎症に用いる機会があります。腰から下の冷えと重さを伴う人に苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)、顔色不良でむくみがちな人に当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)がよい場合もあります。

あなたの場合、年齢を考えると前立腺肥大を伴う過活動膀胱の可能性があります。まず泌尿器専門医の診察を受け、その上で八味地黄丸牛車腎気丸を用いるとよいでしょう。

2020 vol.36