ためして!漢方

めまいの漢方薬

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
聖マリアンナ医科大学客員教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成29年より東海大学医学部専門診療学系漢方医学・教授。令和6年4月より東海大学医学部・聖マリアンナ医科大学客員教授。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、医学教育専門家。
主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)『わが家の漢方百科』(東海教育研究所)

更年期の頃からめまいがありましたが、最近になって起き上がった時に目が回り、ひどい時は吐いてしまいます。ふだんからふわふわする感じがあり、頭が痛いこともあります。頭部MRIや平衡機能検査では異常がなく、西洋薬を飲み続けるのが不安です。何かよい漢方薬があれば教えてください。
(67歳、女性)

めまいは臨床症状から、回転性めまい(良性発作性頭位めまい症、メニエール症候群など)、眼前暗黒感(循環器疾患など)、平衡障害(小脳変性症、薬物過量など)、浮動性めまい(パニック障害、前庭障害など)に分類できます。日常よく見かけるめまいは、多くが内耳にある平衡感覚をつかさどる三半規管の障害による末梢性めまいで、回転性でも非回転性でも、漢方治療のよい適応となります。しかし、脳梗塞や脳出血、てんかんが原因で起こる中枢性めまいは、もうろうとする、飲み込みにくい、ろれつが回らない、激しい頭痛がする、けいれん発作を起こすなどの神経症状を伴うことが多く、西洋医学による速やかな対応が必要です。

耳に原因がある末梢性めまいの多くは、漢方的に水滞として捉えられます。水滞とは体内における水分の代謝や分布に異常がある病態で、主に浮腫、口渇、尿量減少などの症状を現します。その他、瘀血(月経周期に関連して生じる)、血虚(貧血に伴う)、気逆(のぼせやイライラに伴う)、気虚(倦怠感が背景にある)、気滞(抑うつ気分や息苦しさに伴う)など、めまいはさまざまな病態の一症候としても起こります。しかし、めまいを主に訴える場合は水滞であることが多く、他の症状に付随して生じるめまいの場合には、水滞以外の病態も疑う必要があります。

水滞によるめまいに用いる処方の代表は苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)で、末梢性めまいの第一選択と言ってよいでしょう。もしも食後の眠気などの胃腸虚弱のサインが明らかなら半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)にします。五苓散(ごれいさん)は水滞に対する代表的処方で、浮腫や尿量減少などがあれば選択します。顔色が悪く、体が重くて立っていられない人は真武湯(しんぶとう)の適応です。また、血圧が高くて脳血流低下が疑われる高齢者には釣藤散(ちょうとうさん)がよく効きます。その他、更年期障害に伴うめまいには一般に加味逍遙散(かみしょうようさん)を用い、体格が良ければ女神散(にょしんさん)も考慮します。のぼせてイライラが強い高血圧患者は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)にします。

あなたの場合、頭を動かした時にめまいが起こるので、良性発作性頭位めまい症が疑われます。検査で異常がないというので、まずは苓桂朮甘湯を飲んでみてください。