伝統工芸のひきだし - Japan Traditional Crafts

安比塗(あっぴぬり)

日野 明子(ひの あきこ)氏
日野 明子(ひの あきこ)
クラフトバイヤー

1967年神奈川生まれ 共立女子大学家政学部生活美術学科在学中に教授であった秋岡芳夫氏の影響を受ける。 松屋商事(株)(百貨店松屋子会社・1998年に解散)にて北欧テーブルウェアおよび国内クラフト/工芸品の営業を経て、1999年独立、スタジオ木瓜を設立。一人で問屋業を始める。ショップと作家・産地をつなぐ問屋業を中心に、テーブルウェアを主体とした生活に関わる日本の手仕事・地場産業の展示会や企画協力、アドバイスを行う。
写真:長田朋子

良質な雪質で人気の安比高原スキー場がある岩手県八幡平市。この地に流れる安比川流域を、地元の人は「漆街道」と呼ぶ。この地域の縄文遺跡から漆の付いた土器が発見されるなど、古くから漆を利用していたことが推測される。江戸期に産業として盛んになり、安比川の上流域では木地を、下流域では漆を採取、中流域では漆が塗られたという。交通の要所であった荒屋新町では市が開かれ、漆器関係の商売も盛んに行われ、民藝の始祖・柳宗悦(やなぎむねよし)も訪れている。

だが戦後、プラスチックの登場で、この安比川周辺の漆産業も打撃を受け衰退した。わずかに残った漆器関連の仕事を引き継ぐ若者が1970年代に動き出した。冨士原文隆さんは木地の名手と言われた“金作じいさん(藤村金作)”のもとで修行していた折、“漆も塗れた方が良かろう”と、盛岡市の工業技術センターで塗りを習得。地元に帰ったのち「塗師育成の場を作る」ことを首長に進言。1983年に塗師を養成する漆器センターが誕生。ここで作られた漆器を「安比塗」と名付けた。

漆は傷つきやすい、高価、と思われがちだが、安比塗は“日常使い”を意識した漆器だ。かつてこの地で作られていた「荒沢漆器」と呼ばれていた漆器は、素朴な良さはあるが簡素な作りで耐久性は乏しかった。新たに生まれた安比塗は、ベンガラ(酸化鉄)を混ぜた漆を5回塗り重ねた堅牢な下地で、その上に地元の漆を塗って仕上げている。熱湯を入れない、落とさない、というガラスと同程度の気の使い方で十分だ。「高価」と思われがちだが、多くの人に使ってもらいたい、とできるだけ値段を抑えている。

漆器センターが生まれて40年。卒業生の一部は併設する漆器工房で働いているが、多くは個人作家として独立している。行政が運営する施設での人材育成は、修了後、地元に残ることが通例だが、「全国で活躍して安比で修行したことを伝えることで、安比の名前を広めてくれればいい」という考え方だ。卒業して一人で仕事をしても値段が抑えられるのは、古巣が漆器組合のように漆の流通を助けていることもあるようで縁は続く。

安比塗の特徴である実直な塗りをベースに、卒業生はそれぞれ加飾などを施しながら自分の個性を磨いて活躍している。一見、共通点はないように見えるが、地道な塗り方と、「漆器の良さを知ってもらいたい」という思いは同じなのだ。

■酒セット

■酒セット 安比塗漆器工房
(左)ぐいのみ〈溜・朱〉 直径6cm×高さ7.5cm 各色¥8,800
(右)4.5寸片口 直径13.5cm×高さ9cm ¥26,400
工房のマークに使われている片口はこの地方の家には必ず一つはあるアイテムでした。伝統的な形の片口に合わせて作ったぐい呑みは安定感がありエッグスタンドにもなります。

■汁椀

■汁椀 漆工びん 二瓶由起子
(左)絵付椀「ののはな」 直径11.4cm×高さ7cm ¥11,000
(右)絵付椀「はなのかげ」 直径11.4cm×高さ7cm ¥11,000
2020年修了。独立後、貪欲に絵付けをこなしています。絵付けと一言で言っても筆捌きはさまざま。朱に黒のコントラストで可愛い絵付けを出来るのは本人の裁量です。

■4.4寸羽反椀

■4.4寸羽反椀 安比塗漆器工房
(左)5年使用 (右)新品 直径12.8cm高さ7cm ¥11,000
漆の醍醐味は「使い艶」。 漆は触って楽しむもの。食べるときだけでなく、洗うとき、拭くときも触って楽しんでください。使い込むごとに艶が増して「私のお椀」と実感するようになります。漆は丈夫ですが、沸騰したお湯と紫外線だけは苦手なのでこの2つは避けてください。

■皿

■皿 夢積工房 髙橋睦
(左)和紙貼菓子皿 大 直径13.5cm×高さ1cm ¥5,500
(右)和紙貼菓子皿 小 直径12cm×高さ1cm ¥5,280
2008年に研修を終え、秋田に帰郷して制作を続ける髙橋さんは独特な絵柄が魅力。 こちらのお皿は透かしの入った和紙を貼って白漆で仕上げたもの。

■小皿セット

■小皿セット 冨士原智子
(左)「小花」小皿5枚組 直径10cm×高さ2.5cm ¥26,400
(右)「夜気」まめ皿5枚組 直径10cm×高さ2.5cm ¥24,750
1986年修了の初期メンバー。お隣の浄法寺塗の絵付け部門で唯一の伝統工芸士に認定されています。小花は一枚一枚色違い、夜気は一枚だけ絵替わりを楽しめます。

■箸

■箸 村上尚美
(上)溜 長さ23.5cm 各¥2,750
(下)朱 長さ21cm 各¥2,750
1999年修了後、愛知県へ。今年からは長野で活動する村上さん。食事中、思わず手元を見たくなる、繊細で愛らしい絵付けが持ち味。

お問い合わせ
安比塗漆器工房
〒028-7533 岩手県八幡平市叺田230−1
TEL:0195-63-1065 FAX:0195-63-1066
https://www.appiurushistudio.com
※価格はすべて税込価格です。商品の仕様および価格は、変更が生じる場合があります。