蜻蛉(とんぼ)玉をご存知だろうか。剥離剤をつけた金属棒に、溶かしたガラスを巻きつけて出来る穴の空いた硝子玉だ。正倉院の宝物としても知られる、古来から装飾品として重宝されてきたものだ。現代では体験教室などで実際に作られた方もいらっしゃるだろう。大阪にこの蜻蛉玉を伝統工芸として技術を継承している工房がある。
大阪の南西部に位置する和泉国(現在の泉州地方)では蜻蛉玉が作られてきたという。ちょっとした装飾物や玉すだれなどの材料として重宝され、この地方では農業の傍ら蜻蛉玉を作っていた人もいたという。和泉蜻蛉玉の工房である山月工房の創業者・小溝時春さんは、11歳からこの技術を身につけ、蜻蛉玉を専業にしていた。蜻蛉玉を買い付ける問屋の中には値段の安さで商売する輩もいる。その戦いに勝つには技術とスピードを上げるしかない。小溝さんの技術は追随を許さないものになったが、時代に伴い需要は減っていき、いつしか専業の職人は小溝さんただ一人になっていった。そんな父の背中を見て、娘の有利子さんは技術継承を決意する。仕事を学べば学ぶほど、この技術が他に類を見ない貴重なことが分かってきた。まず道具。巷ではガスでガラス棒を温めるが、和泉蜻蛉玉は専用のガラス棒を微妙な温度調整をするために特殊な燃料系のバーナーなど専用の器具を使う、ガラスを冷ます時は特殊な灰を使う。他にも受け継がれてきた、さまざまな工夫が積み重なっての技術は伝統工芸に他ならないが、一定の事業者数を有することが求められる国指定の伝統的工芸品にはなり得ない。だが、数以外は同じ規定の大阪府の伝統工芸にはなりうる、と資料集めに奔走する。人伝に日記を探し、神社仏閣の資料に当たり、苦労の末歴史は証明され、平成14年に大阪の伝統工芸品に指定された。
この頃、国宝である平等院の宝物の再現の相談が持ち込まれる。国宝となると、形だけでなく素材から研究しなくてはならない。もしやと思い、工房で昔の材料の元素分析をしたところ、国宝のそれとほぼ同じことが分かった。一般的な蜻蛉玉は既存のガラス棒を使うが、これをきっかけに山月工房ではオリジナルのガラス棒を作ることを決意。ガラスの原料となる鉱物の配分を少しずつ変えては、昔の品に着けてみる。ガラスの組成が違うとガラスは割れてしまう。薬の開発のような地道な試験を繰り返し、3年を経て、1000年前の硝子に辿り着いた。現在、山月工房では唯一無二の原料で、昔ながらの道具を使い、美しい蜻蛉玉を作り続けている。
※「和泉蜻蛉玉」は、山月工房の登録商標です。
■勾玉<本体・小玉・紐のセット>
(左)金赤 幅約1.6cm×高さ約3.2cm×厚さ約1cm ¥11,000
(中)紫 幅約2.1cm×高さ約3.3cm×厚さ約1.4cm ¥16,500
(右)白 幅約2.1cm×高さ約3.3cm×厚さ約1.3cm ¥16,500
高麗から伝承した技術を生かし、古来より“三種の神器”の一つとして伝わる勾玉を制作。邪気を払うと言われる勾玉。ネックレスにしたり、ストラップにしたり。
■お香立て 時越香〜ときおいのかおり〜(お香付き)
約Φ1cm×高さ約2cm ¥3,300
江戸時代に「さかとんぼ」と呼ばれた技術を用いた「古墳」型の玉のお香立て。大阪府立堺工科高等学校・定時制の生徒が地域のぶどうを取り寄せて作成したお香とセットになっている。
■ブレスレット
約Φ6cm ¥16,500
象牙色の玉に和泉蜻蛉玉の伝統柄を埋め込んだ伝統色の玉をアクセントに入れたブレスレット。同じ大きさ、同じ色彩にするためには熟練の技が必要になる。
■ネックレス<本体・小玉・紐のセット>
約Φ2cm(中心の蜻蛉玉) ¥6,600
伝統柄である「紙風船」の文様の玉に、「小玉」のピースを二つ組み合わせたネックレス。小玉を組み合わせることで、さまざまな可能性が広がる。
■耳かき
長さ14.5cm×約Φ1cm(中心の蜻蛉玉) ¥5,500
「方穴」と呼ばれる特殊技法で開けた穴に柘植の柄をあしらった耳かき。柘植の部分も伝統的技術を持った職人が作っている。
■お香立て 千の時〜せんのとき〜
約Φ2cm ¥5,500
平成22年に世界遺産である平等院鳳凰堂・阿修羅如来坐像の瓔珞(ようらく・装身具)を復元。復元のためにオリジナルで調合したガラス素材を「千の時」と名付け、使用した玉のお香立て。
■イヤリング
約Φ1.1cm ¥33,000
材料を束ねた状態で制作することで可能になる「スジ入り」と呼ばれる技法で作られた玉をあしらったイヤリング。
山月工房
〒590-0028 大阪府堺市堺区三国ヶ丘御幸通59
堺高島屋南館5階
TEL:072-224-2670 FAX:072-224-2671
https://izumi-tombodama.com
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