岩崎元郎の山歩きのススメ

陽だまりハイク

岩崎 元郎氏
岩崎 元郎(いわさき もとお)
日本登山インストラクターズ協会理事長

1945年、東京生まれ。無名山塾主宰、日本登山インストラクターズ協会理事長。中高年登山ブームの仕掛け人。81年春、ネパールヒマラヤ・ニルギリ南峰登山隊に隊長として参加。帰国後11月、無名山塾を設立。NHK教育テレビ番組『中高年のための登山学』で講師を務める。著書に『山登りの作法』(ソフトバンククリエイティブ)、『ぼくの新日本百名山』(朝日新聞出版)、『登山不適格者』(NHK出版)ほか。

寒風吹きすさぶ冬、アウトドア大好き人間もコタツにお尻まで潜り込んで、微動だにしない。寒風吹きすさんでいるのなら、それも仕方なかろう。しかし、毎日寒風が吹きすさぶわけではない。三寒四温という言葉があるように、冬場の天気周期は基本的に7日、寒風にもじっと耐えていれば、7日のうちには風が止み、燦々と陽が射す日が必ずくる。陽だまりハイクのチャンス到来。こんな日にまだコタツに潜り込んだままなら、「アウトドア大好き」という看板は外して頂きたい。

陽だまりハイク、これは冬場であればこそのハイキングの楽しみ方だ。ガツガツ歩いてはいけない。次のバスは〇時だから、もう少し早く歩かないと乗り遅れる、なんて時間を気にして歩くなんてナンセンス。腐葉土の柔らかくて歩きやすい道は、尾根を巻くように山懐にはいる。そこは風もなく、陽が溜まっていてポカポカだ。どこからともなく、コーヒーブレークの声がかかる。携帯用のガスコンロが出る。小さなというより可愛らしいガスカートリッジがセットされると、すぐに点火。コンロに乗せたコッヘルにポットのお湯をそそぐ。「冬はポットのお湯を使えば、すぐに沸騰するのよ」と、ベテランさん。あれよあれよいう間に紙コップに注がれたコーヒーが、皆に手渡される。とりとめもないおしゃべりの始まり。なにごとにも代えがたい至福の時間だ。

山にはいろいろな登り方がある。高い山、とんがった山、困難な山のほうが人気が高い。あるいは冒険的な山、クライミング競技などが注目を集める。しかし、誰もがそんな山登りができるわけではあるまい。エベレストに登ってみたいと思うより、のんびりと陽だまりハイクやってみたいな、と思うほうがその人にフィットしているという意味でずっと素敵だし、手の届くところにあるし、同行者も大勢いることだろう。

昨今、山に競争を持ち込む人が増えてきた。ルールがないのが山、勝ち負けがないのが山であったはずだ。陽だまりハイクの心を思い出して頂きたい。

2019 vol.34