健康プラザ

体内植え込み式「AED」の話

菱田 仁氏
菱田 仁(ひしだ ひとし)
医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長
前 藤田保健衛生大学病院 院長

昭和40年、名古屋大学医学部卒業。同大学大学院修了、医学博士。名古屋大学第一内科副手、名古屋保健衛生大学(現・藤田保健衛生大学)内科講師、助教授を経て昭和63年教授、平成18年2月より病院長。平成21年4月より医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長。専門は臨床心臓病学、特に心不全、虚血性心疾患、画像診断。

AEDとは自動体外式除細動器、すなわち身体の外から心臓に電気ショックをかける医療機器のことです。最近は広く普及し、人の集まるところに設置してあります。心臓と稲妻の絵にAEDという文字を組み合わせたロゴマークの看板でその所在が分かります。

《突然死と心室細動》

さて、いつもと変わらず元気にしていた人が突然倒れて命を落としてしまうことを突然死と言います。その原因は多くの場合心臓です。心臓に何らかの問題がある人になんらかの引き金が働いて、心室細動という不整脈が起きると、心臓から血液が拍出されなくなります。そうすると10秒前後で意識が低下し、4〜5分すると脳は不可逆的な変化を起こします。そして死んでしまいます。素早く心臓に電気ショックをかければ心室細動を治すことができますが、一刻を争います。心室細動になってから1分経過するごとに救命率は10%ずつ低下し、10分も経てば救命の可能性はなくなってしまいます。救急車を呼んでも到着するのに8分くらいはかかりますので、まず助かりません。

《AEDが命を救う》

その解決策として考えられたのが、たまたま居合わせた人が心肺蘇生を行えるような体制をつくることです。つまり、一般人を、心臓マッサージ(胸骨圧迫)と人工呼吸、さらには心臓の電気ショックも行えるように啓蒙して、あちこちにAEDを設置することです。

最近の統計によると、突然の心停止(多くが心室細動による)を起こしたときの救命率(1ヵ月生存率。多くの人は社会復帰します)は、救急車の到着を待っていた時は9.2%に対し、居合わせた人が胸骨圧迫を行うと16.1%、さらにAEDを使って電気ショックまで行うと54.0%に増加します(平成28年版消防庁資料)。つまりAEDまで行うと、半数以上の人の命が救われます。

《ICDの植え込み》

このAEDを、もっと高性能かつ小型にして胸に植え込むのがICD(植え込み式心臓除細動器)です。心室細動やそれに近い致死的不整脈を感知すると、自動的に心臓に電気ショックをかけます。ICDは、心室細動を起こしやすい心臓病がある人にとって、命を失わないために最も有効な治療法とされています。

わが国では、年5000件程度のICD植え込み手術が行なわれています。どんな人に植え込むかというと、多いのは心筋梗塞などの冠動脈疾患や心筋症の患者さんです。そういった患者さんが、不整脈が原因で突然死しかけたがたまたま助かった場合などに、再発して命を失うのを防ぐために植え込みます。その他に、心室細動を起こしやすい、遺伝子変異が原因の心臓病を持つ患者さんも対象です。例えば「ポックリ病」です。働き盛りの中年男性が就寝中に心室細動を起こす病気です。心電図波形に特徴があり、最近はBrugada(ブルガダ)症候群と呼ばれて注目されています。子供の学校健診などで見つかるQT延長症候群やカテコラミン誘発心室頻拍という病気もあります。いずれも、将来、突然死を起こす可能性が高いと判断されると、ICD植え込みが行われます。

以上のように、必要な時に自動的に心臓に電気ショックをかけるICDは、心室細動などの致死的不整脈を起こす恐れのある患者さんにとって、命綱となる医療機器です。

2019 vol.34