健康プラザ:ストレスと循環器疾患

菱田 仁氏
菱田仁(ひしだ ひとし)
医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長
前 藤田保健衛生大学病院 院長

昭和40年、名古屋大学医学部卒業。同大学大学院修了、医学博士。名古屋大学第一内科副手、名古屋保健衛生大学(現・藤田保健衛生大学)内科講師、助教授を経て昭和63年教授、平成18年2月より病院長。平成21年4月より医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長。専門は臨床心臓病学、特に心不全、虚血性心疾患、画像診断。

昨年12月から、企業には従業員のストレス・チェックを行なうことが義務づけられました。職場では様々な心理的ストレスがあり、それがメンタルヘルスの不調を引き起こし、自らの命を絶つ悲劇へと繋がることがあります。近年そういった事例が増えて労働衛生上問題となりました。そこで悲劇の芽を摘む目的で始まったのがストレス・チェックです。従業員は与えられたチェックシートを用いて、職場が原因のストレスを抱えているかどうかを自分で調べます。そして、その結果により産業医に相談しつつ解消を図るというものです。

《今や社会問題》

労働衛生では、長時間労働の身体への弊害も問題視されてきました。具体的には、長時間労働などによる過労が心筋梗塞や脳卒中を引き起こし、従業員の命をも奪ってしまうというものです。過労死という言葉が生まれ、社会問題化しました。対策として、超過勤務の多い者の健康管理と、従業員のメタボ検診や人間ドックによる身体状態の定期チェックに力が入れられました。これらが心筋梗塞や脳卒中の予防に役立つことはいうまでもありません。しかしながら、身体の異常である、これらの循環器疾患の進展・発症にも心理的ストレスは大きく関わっています。

よく引き合いに出されるのが、21年前の阪神淡路大震災です。この直後、心筋梗塞を発症する人が大幅に増えたと言われています。一方、急性心筋梗塞患者の約4割の人が、発症原因として心理的ストレスを挙げ、その多くが仕事に関係するものだったといいます。

《急性ストレス反応とは》

では心理的なストレスはどのようにして心筋梗塞や脳卒中といった循環器疾患に繋がるのでしょうか。心理的なストレスが加わると、まず、脳の視床下部が活性化します。それに続く反応の仕方は2通りあります。一つは、自律神経の交感神経系の活性化です。その結果、血圧が上昇し、心拍数が増し、心収縮力が強くなり、血液循環が変化し、身体の活動能力が増します。これは人が危険に曝された時に、それを凌ぐために都合が良い生理変化です。急性ストレス反応と言います。ただ、心臓に負担をかけますので、長引けば心臓はへたばってしまいます。もう一つは、仕事や家庭における心理的ストレスのような慢性ストレスの場合です。視床下部—下垂体—副腎皮質系が活性化します。持続すると、ホルモンの作用による代謝異常が動脈硬化を促進するなど不利なことが起こってきます。慢性ストレスでうつ状態となれば、生活習慣が悪化して、それによる悪影響も加わります。

《ストレスも動悸の原因》

長時間労働などによる過労では、これら2つのメカニズムが相まって心理的ストレスに関連する心筋梗塞や脳卒中が発症しやすくなると考えられます。

最後に、心理的ストレスが原因で交感神経系が活性化すると、動悸、胸苦しさ、冷汗などの症状を自覚することがあります。こういったことが頻繁に起きると、心臓病ではないかと心配して病院を受診しますが、多くは自律神経失調症とか心臓神経症とかの診断がなされます。心理的ストレスにより、このような症状が出たら、とりあえずは、動悸を抑える市販薬を服用して、はやる心臓を落ち着かせるのも一法ではないかと思います。

《参考》 井上 信孝編:「循環器ストレス学」(南山堂)
2017 vol.30