ためして!漢方:坐骨神経痛

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
東海大学医学部専門診療学系漢方医学・准教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成27年4月より現職。早稲田大学、新潟大学ほか非常勤講師なども務める。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、(社)和漢医薬学会理事。主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)

病院で坐骨神経痛と言われました。普段から軽い腰痛はありますが、冬になると悪化します。痛み止めの内服薬とシップ薬を使っていましたがあまりよくならず、痛み止めものみ続けたくありません。左側がお尻から足首まで重だるい痛みもあります。漢方薬で痛み止めをのまずに楽になりますでしょうか?
(75歳、女性)

坐骨神経痛とは、臀部から大腿後面、下腿にかけて伸びている坐骨神経に沿って現れる痛みやしびれなどの症状を指します。原因は主に腰椎周囲で坐骨神経が圧迫刺激されるためで、症状が強いと歩行困難を生じることもあります。原疾患の多くは腰椎椎間板ヘルニアですが、中高齢者では腰椎すべり症や腰部脊柱管狭窄症によることも少なくありません。一般に初期には安静と消炎鎮痛薬、けん引などで治療しますが、症状が長引くと手術の対象になることもあります。

漢方では、坐骨神経痛に加え、腰痛、下肢の痛みや衰弱、夜間頻尿などの加齢で生じるさまざまな症状を「腎虚」というパターンでとらえて治療します。また、局所のうっ血や浮腫が神経を圧迫していると考えて「瘀血(おけつ)」や「水毒」の治療を行ったり、痛みという観点から鎮痛効果をもつ漢方薬を用いたりします。さらに、痛みが慢性化すると寒さや湿気で悪化することが多くなるため、温めて痛みを取る附子(ぶし)という生薬を加えます。

具体的には、腎虚が明らかであれば、第一に八味地黄丸(はちみじおうがん)を選択します。この処方はいわゆる抗加齢薬のようなものですから、長期間服用するとよい結果が出ます。もしも、しびれが取れないなど、効果が不十分な場合には牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)にグレードアップし、附子(医療用の粉末も錠剤もある)を加えて効果を高めます。痛みが夜間や飲酒で悪化するという特徴があれば瘀血を改善する疎経活血湯(そけいかっけつとう)、手足の冷えが強ければ当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)も効果が期待できます。また、鎮痛という観点から、急性期には芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を用い、冷えて痛む場合にはさらに附子を加えます。慢性化した痛みに対しては麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)の効果が期待できますが、薏苡仁湯(よくいにんとう)が有効なケースもあります。これらで胃がもたれたり、食欲がなくなったりする人には五積散(ごしゃくさん)桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)で対処します。打撲で生じた坐骨神経痛は局所のうっ血が強いと考えて桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)で治療します。

このように、坐骨神経痛にはさまざまな漢方薬を用いますが、あなたの場合、75歳という高齢で腰痛を伴うことから、まず腎虚に用いる八味地黄丸を服用することをお勧めします。1〜2ヵ月間服用しても効果が不十分であれば、牛車腎気丸に変えたり、附子を加えたりしてみるとよいでしょう。

2017 vol.30