ためして!漢方

睡眠障害

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
東海大学医学部専門診療学系漢方医学・教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成29年4月より現職。早稲田大学、東北大学ほか非常勤講師なども務める。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、(社)和漢医薬学会理事。主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)

家事とフルタイムの仕事をしており、体は疲れているのに眠りが浅く、熟睡感がありません。そのせいか疲れが取れません。不眠症に効く漢方薬はありますか。
(56歳、女性)

人の睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠というまったく異なる2つの睡眠状態に分けることができます。レム睡眠とは眠っている間にピクピクと眼球が急速に動く(Rapid eye movement : REM)睡眠のことで、脳の活動が盛んなために眠りが浅く、夢の多くはこのレム睡眠中に見ます。これに対し、ノンレム睡眠とは眼球運動が見られない深い眠りで、脳全体の血流も低下しています。睡眠の約75%はノンレム睡眠、約25%はレム睡眠で、約90分周期で、交互に規則正しく、一晩に5、6回繰り返されます。睡眠が進むほどレム睡眠の割合が多くなり、脳を覚醒させる準備に入るため、この間に目が覚めると、すっきりと快適な目覚めを得ることができます。

朝起きたとき眠気がする、よく眠った感じがしない、昼間に眠気を感じるなどの睡眠に対する不満は、就寝からノンレム睡眠出現までの時間が長かったり、ノンレム睡眠の時間が短かったり、深いノンレム睡眠が得られていなかったりするためであることが多いのです。

不眠に対する漢方治療では、寝つきの悪い入眠障害と眠りが浅くて中途覚醒する熟眠障害に分けて考えます。

入眠障害の場合、よく用いられるのが抑肝散(よくかんさん)で、これは眠れないことにイライラして頭がさえてしまうようなタイプです。また、眠る直前までテレビやゲームに夢中になるなど、頭が興奮状態になって血圧も高めの人には黄連解毒湯(おうれんげどくとう)がよいでしょう。

熟眠障害では、睡眠の質が悪く、寝ているはずなのに朝になっても疲れが取れない場合に酸棗仁湯(さんそうにんとう)が効きます。ストレスで交感神経が緊張し、ちょっとした音でも目が覚めてしまい、ときに動悸感を伴う人には柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を用います。これで体質が虚弱であれば桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)にします。また、更年期女性には加味逍遥散(かみしょうようさん)、高齢者や虚弱体質者で抑うつ傾向があれば加味帰脾湯(かみきひとう)も候補になります。

あなたの場合、体は疲れていても眠りが浅くて熟眠感がなく、疲れが取れないというのですから、まさに酸棗仁湯の適応だと思われます。寝る前に1包服用するのでよいですが、少なくとも1ヵ月くらいは続けてみてください。

2019 vol.34