ためして!漢方

胃の痛み、腹痛

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
東海大学医学部専門診療学系漢方医学・教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成29年4月より現職。早稲田大学、新潟大学ほか非常勤講師なども務める。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、(社)和漢医薬学会理事。主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)

人間関係のストレスを感じていて、イライラしたり、よく眠れなかったりします。そのせいか、胸からみぞおちにかけて重苦しさがあったり、胃やお腹がキリキリと痛み、辛いです。重苦しさや痛みを和らげる漢方がありましたら教えてください。
(38歳、男性)

ピロリ菌除菌療法が確立したことにより、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を繰り返す人は激減し、胃がんの発生も従来の1/3に減りました。しかし、現代のストレス社会を背景に、潰瘍やがんがなくても胃の不快感を訴える機能性ディスペプシアと診断される人の数は多く、ピロリ菌除菌後の大きな課題となっています。本症の治療薬として、近年では効果的な西洋薬が開発されていますが、漢方薬は昔からこのような機能失調による病気の治療によく用いられてきました。

機能性ディスペプシアを漢方薬で治療するには、はじめに痛みを伴うかどうかに着目します。痛みを伴わないものは食後愁訴症候群といわれ、六君子湯(りっくんしとう)が第一選択薬になります。この処方は痩せて虚弱な人や高齢者の食欲低下や胃もたれに効果的で、胃の動きを改善したり、食欲増進ホルモンを増やしたりする作用が証明されています。もしもみぞおちが張って、つかえた感じが強ければ半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)にします。胸やけなどの逆流症状や吐き気を伴う人には、この処方をコップ1/3位の熱湯に溶かし、小指頭大の新鮮な生姜の絞り汁を加え、冷ましてから飲むとさらに効果的です。また、ストレス性で胸苦しさやのどのつかえ感を伴えば半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、軟便や下痢が続けば人参湯(にんじんとう)がよいでしょう。

一方、痛みを伴うものは上腹部痛症候群と診断されます。第一選択薬は柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)で、この処方に含まれる芍薬には筋けいれんを緩和する作用があるため、絞られるようなキューッという痛みが目標になります。同様に、芍薬を含む四逆散(しぎゃくさん)も上腹部痛に有効で、比較的がっしりした体格で、気分がうつうつとする人に適しています。さらに、体格がよくて上腹部全体が張って苦しく、便秘傾向の人には大柴胡湯(だいさいことう)を用います。これに対し、芍薬を含まない安中散(あんちゅうさん)は鈍い痛みに用いますが、痛みがなくても胸やけなどがある人に広く用います。ストレスによる急性胃炎で、みぞおちがつかえて痛む人には黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が効果的です。

さて、あなたの場合、胃カメラなどで大きな問題がなければ、機能性ディスペプシアの中の上腹部痛症候群と診断されます。イライラや不眠、胸苦しさなどもありますので、四逆散を用いたいところですが、虚弱な体格であれば柴胡桂枝湯でもよいかもしれません。

2018 vol.33