北上次郎のがんばれ熟年!「応援選書」:みかづき(森 絵都)

北上 次郎 氏
北上次郎(きたかみ じろう)

1946年東京生まれ(本名 目黒考二)
明治大学文学部卒。1976年椎名 誠氏と「本の雑誌」を創刊。「冒険小説論」(双葉文庫)で日本推理作家協会評論賞受賞。他に、「情痴小説の研究」(ちくま文庫)「笹塚日記 ご隠居篇」(本の雑誌社)「本の雑誌風雲録 新装改訂版」(同)「活字競馬 馬に関する本究極のブックガイド」(白夜書房)「極私的ミステリー年代記」(論創社)「昭和残影」(角川書店)「勝手に! 文庫解説」(集英社文庫)等の著作と、「14歳の本棚ー青春小説傑作選」全3巻(新潮文庫)「昭和エンターテインメント叢書」全5巻(小学館文庫)の編著有り。新刊に、椎名誠との共著「本人に訊く(壱)」(椎名誠旅する文学館)有り。

みかづき(森 絵都)集英社 1,850円(税別)
集英社 1,850円(税別)

森絵都『みかづき』(集英社)は、学習塾を経営する夫婦、大島吾郎と千明の日々を描く長編だが、背景にあるのは戦後教育の変遷だ。したがって、テーマは「理想の教育とは何か」だが、小説の名手森絵都の作品であるから堅苦しい小説ではけっしてない。絶妙な人物造形と、巧みなドラマを積み重ねていくから、いやあ、面白い。あっという間に読みおえてしまうから素晴らしい。この夫婦には、蕗子、蘭、菜々美という三人の娘がいて、このキャラもいい。これは、娘たちがどんな人生を選んでいくかという姉妹の物語でもあるのだ。

夫婦、娘たち以外にも個性的なわき役たちが揃っていて、それも実に絶妙であるのだが、その筆頭は千明の母頼子。このおばあちゃんの人間観察は鋭い。たとえば、千明の夫吾郎についてはこう言うのである。

「ああいうタイプは、女の押しに弱いのよ。それに若くしてお母さんを亡くしたせいか、あの人、そうとうなマザコンでしょ。塾みたいに、若いお母さん方が年中群がっているような環境で、ふた心なくやっていけるのかしら」

これは吾郎を鋭く分析している。さらに頼子の名言は続く。

「一緒になるなら、ほどよく鈍感でおおらかな男の人を選びなさい」

これはずっと後年、千明の長女蕗子に残す遺言だが、たしかにそうだよなあと思う。「ほどよく鈍感」で「おおらかな人」が結婚相手に向いている、というのは真理なのだ。

面白いのは、そういう男を選ぶのは千明だけでなく(千明の配偶者吾郎はまさにそういう男である)、蕗子も蘭も「ほどよく鈍感」で「おおらかな人」を選ぶからケッサクだ。おばあちゃんの教えを守るから、いい孫たちといっていい。子供や孫に、そういう指針を与えることのできる老人に私もなりたいが、これがなかなか難しい。頼子の偉大さを実感するのである。

2017 vol.30