北上次郎のがんばれ熟年!「応援選書」

本日も教官なり小野寺 史宜

北上 次郎 氏
北上次郎(きたがみ じろう)

1946年東京生まれ(本名 目黒考二)
明治大学文学部卒。1976年椎名 誠氏と「本の雑誌」を創刊。「冒険小説論」(双葉文庫)で日本推理作家協会評論賞受賞。他に、「情痴小説の研究」(ちくま文庫)「笹塚日記 ご隠居篇」(本の雑誌社)「本の雑誌風雲録 新装改訂版」(同)「活字競馬 馬に関する本究極のブックガイド」(白夜書房)「極私的ミステリー年代記」(論創社)「昭和残影」(角川書店)「勝手に! 文庫解説」(集英社文庫)等の著作と、「14歳の本棚ー青春小説傑作選」全3巻(新潮文庫)「昭和エンターテインメント叢書」全5巻(小学館文庫)の編著有り。新刊に、椎名誠との共著「本人に訊く(壱)」「同(弐)」(椎名誠旅する文学館)有り。

本日も教官なり(小野寺 史宜)角川書店 1,500円(税別)
角川書店 1,500円(税別)

小野寺史宜『本日も教官なり』は自動車教習所の指導員、四十五歳の益子豊士を主人公とする長編だ。元妻から電話がきて、十七歳の娘が妊娠したとの知らせを聞くところから始まる物語で、ただいま売り出し中の小野寺史宜の新作だけにたっぷりと読ませて飽きさせない。

読みどころの多い小説だが、ここでは六十九歳の臼井しのさんに話を絞ろう。益子を指名してくるおばあちゃんだ。自動車教習所には、年配の人も結構やってくる。益子が働く教習所でも、五十代六十代なら二ケタ。七十代でも年に一人か二人はいるという。実際に七十代でも免許は取れるようだ。その歳で免許を取りにくるからには、それぞれ切実な理由があり、だから規定時間はオーバーするが、本当にがんばるらしい。

では、臼井しのさんの切実な理由とは何か。孫を乗せたい、と言うのだ。その気持ちはよくわかる。だから免許を取ってもらいたい。益子は臼井しのさんにこう言う。

「六十九歳の女性が免許をとったらカッコいいですよ。それはもう、何ていうか、ロックですよ。ロックの世界ですよ」

益子はロック中年なので、なんでもロックに例えるのだ。

しかし何度教習所にきても臼井しのさんの技術は進歩せず、益子もハンコを押すことが出来ない。

で、結局は、免許を断念することを進言し、おばあちゃんもそれを納得する。このまま自分が免許を取得しても、将来的に事故をおこして孫を怪我させるのではないかと心配になったらしい。読みながらそのことを心配していたので、おばあちゃんの決断にほっと安心。そうなのだ、何も車に乗せるだけが愛情ではないのだ。孫を愛するかたちはもっといろいろある、と臼井しのさんの勇気ある撤退を、心から称賛するのである。

2018 vol.32