北上次郎のがんばれ熟年!「応援選書」

「すぐ死ぬんだから」 内館 牧子

北上 次郎 氏
北上次郎(きたがみ じろう)

1946年東京生まれ(本名 目黒考二)
明治大学文学部卒。1976年椎名 誠氏と「本の雑誌」を創刊。「冒険小説論」(双葉文庫)で日本推理作家協会評論賞受賞。他に、「情痴小説の研究」(ちくま文庫)「笹塚日記 ご隠居篇」(本の雑誌社)「本の雑誌風雲録 新装改訂版」(同)「活字競馬 馬に関する本究極のブックガイド」(白夜書房)「極私的ミステリー年代記」(論創社)「昭和残影」(角川書店)「勝手に! 文庫解説」(集英社文庫)等の著作と、「14歳の本棚ー青春小説傑作選」全3巻(新潮文庫)「昭和エンターテインメント叢書」全5巻(小学館文庫)の編著有り。新刊に、椎名誠との共著「本人に訊く(壱)」「同(弐)」(椎名誠旅する文学館)有り。

すぐ死ぬんだから(内館 牧子)講談社 1,550円(税別)
講談社 1,550円(税別)

年を取ると、もういいかなと思うことが少なくない。たとえば、ちょっと駅前まで行くとき、よれよれのズボンのままでいいか、と思ってしまうのである。今さらお洒落しても仕方がないし、電車に乗って遠くまで行くならともかく、近所へのおでかけなら、何もわざわざ着替える必要もない。そう考えるのである。

ところが、内館牧子『すぐ死ぬんだから』(講談社)の主人公ハナ78歳は、断然違う! と主張するのだ。年を取ったら、まず外見を磨くこと、これが必要だと断言するのである。どうせすぐに死ぬんだからーーそう考えてはダメだ、とハナは言うのだ。

高校の同期会に行くと、当時は学内のスターだった級友が、くすんだバアさん姿で立っている。普段は肌の手入れも化粧もしていないのだろう。年齢よりもはるかに年上に見える。それに比べてハナは、高校時代は目立たず地味な娘だったが、今は街を歩けば雑誌にインタビューされるほど若々しい。同期会では男の級友たちが皆ハナに寄ってくるほどだ。

もちろん、その若さを保つための努力は怠らない。適度な運動を欠かさず、ファッションにも気を使っている。だから10歳以上は若く見られている。年を取れば、「見た目ファースト」だと彼女は考えているのである。

息子の嫁に不満はあるが、それを除けば、いまハナに不満はない。ところが、それでは小説にならないから、作者はこの年配ヒロインに試練を与えるのである。物語のちょうど真ん中あたりで起きる出来事を境に、ハナは苦境に立たされる。それが何であるのかをここに書いてしまうと読書の興を削いでしまうので書かないでおく。

はたして過酷な現実に対するハナの戦いがどういう決着を見せるのかは読んでのお楽しみにしておくが、「見た目ファースト」という老人の教訓が、読み終えても残るのである。

2019 vol.34