北上次郎のがんばれ熟年!「応援選書」

定年オヤジ 改造計画垣谷 美雨

北上 次郎 氏
北上次郎(きたがみ じろう)

1946年東京生まれ(本名 目黒考二)
明治大学文学部卒。1976年椎名 誠氏と「本の雑誌」を創刊。「冒険小説論」(双葉文庫)で日本推理作家協会評論賞受賞。他に、「情痴小説の研究」(ちくま文庫)「笹塚日記 ご隠居篇」(本の雑誌社)「本の雑誌風雲録 新装改訂版」(同)「活字競馬 馬に関する本究極のブックガイド」(白夜書房)「極私的ミステリー年代記」(論創社)「昭和残影」(角川書店)「勝手に! 文庫解説」(集英社文庫)等の著作と、「14歳の本棚ー青春小説傑作選」全3巻(新潮文庫)「昭和エンターテインメント叢書」全5巻(小学館文庫)の編著有り。新刊に、椎名誠との共著「本人に訊く(壱)」「同(弐)」(椎名誠旅する文学館)有り。

定年オヤジ 改造計画(垣谷 美雨)祥伝社 1,500円(税別)
祥伝社 1,500円(税別)

垣谷美雨『定年オヤジ改造計画』(祥伝社)は、男性読者が心穏やかに読めない小説である。なぜなら、この書名から明らかなように、大手石油会社を六十歳で定年退職した庄司常雄を、妻の十志子と娘の百合絵が改造していく話だからだ。

「夫源病」というのがあるんだそうだ。夫が定年退職後、家にいると妻が病気になることを、そう言うらしい。自分はけっして暴君ではない、怒鳴り散らしたこともない、と常雄は思うのだが、家事は十志子がやるのが当然と考えているし、何も手伝わない。これまでは朝早く家を出て、しかも帰宅は遅いから、十志子の自由時間はたっぷりとあった。それが定年退職後は、夫が毎日家にいるのである。となると、昼食を毎日作らなければならないし、たとえ怒鳴り散らさなくてもそれだけでうっとうしい。夫源病というのは、そういうことのようだ。

中年以降の男性読者が本書を読むと、だからずいぶんとショックである。特に、家事をいっさい手伝ってこなかった夫がこれを読むと、このままでは捨てられるかもしれない、と不安になってくる。

しかしもっと考えさせられるのは、娘の百合絵の次の台詞である。

「大切に育てられてきた男は、結婚しようが子供が生まれようが、いつまで経っても自分が一番大切なんだよ。まっ、最近は女の子も大切に育てられることが多いから、自分が一番大切同士でうまくいかないらしいけどね」

なるほど、と思わず納得する弁だ。つまり、いちばん重要なのは、家事を手伝えばいいというものではないことだ。問題は、世の夫たちが鈍感であることだ。一緒に暮らす人が何を考えているのか、いまの暮らしと将来に対してどういうビジョンを持っているのか、ということを常に考えていることが必要なのである。いや、他人のことを偉そうに言えた義理ではないけれど。

2018 vol.33